クローズアップ解説 ~ FFPE 作製から NGS グレードの DNA 抽出まで~
慶應義塾大学病院は 2018 年に“がんゲノム医療中核拠点病院”として厚労省の認定を受けました。 自費診療による受託臨床検査として 160 遺伝子の異常を調べる「PleSSision 検査」、院内で腫瘍切除を行う 20 歳以上を対象とした臨床研究「PleSSision-Rapid 検査」を行っています。さらに 2019 年から、ヒトのほぼ すべての遺伝子に該当する約 2 万遺伝子を解析する「PleSSision-Exome 検査」を導入しました。高い精度でがん 遺伝子異常を捉え、治療に関連する情報を効果的に提供することが期待できます。 現在では、ひと月約 160 検体のがんゲノム解析を行っており、約 40 のがんゲノム医療連携病院とともにがん 患者様に有用なゲノム情報をフィードバックしています。 クローズアップ解説 ~ FFPE 作製から NGS グレードの DNA 抽出まで~ 慶應義塾大学医学部 腫瘍センター ゲノム医療ユニット 西原 広史 先生 NGS は患者の核酸塩基配列を 1 塩基ずつ読み取り、遺伝子の変異 を見つけ出します。検査感度が非常に良いため、少量の検体から でも検査は可能です。 しかし、検体の品質が不良の場合は解析困難や正確な解析結果が 得られない可能性が高くなるため、ゲノム DNA の品質が重要とな ります。また FFPE はホルマリン固定による DNA ダメージもあるた め、いかに高品質かつ高純度な DNA を抽出するかが肝となります。 1 日本病理学会「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」 に準じて FFPE 作製を! 現在、がんゲノム医療では病理診断が行われたホルマリン固定パラフィン 包埋(FFPE)切片から核酸を抽出し、ゲノム解析を行っています。ホルマリン は DNA を断片化することや、クロスリンクが形成されるため、断片化が激 しい DNA や、過剰なクロスリンクを有する DNA は PCR 増幅やゲノム解析が 困難となります。 つまり、FFPE を用いての遺伝子関連検査の結果は、ホルマリン固定の条 件により大きく左右されるのです。 ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程 1. 組織は摘出後 1 時間以内(遅くとも 3 時間以内)に固定 2. 10% 中性緩衝ホルマリンを使用 3. 6 ~ 48 時間固定 4. 硬組織は EDTA 脱灰 2 高品質かつ高純度な DNA を抽出するために Maxwell® RSC Instrument とその専用試薬である Maxwell® RSC DNA FFPE Kit を採用 基本的に抽出する原理は同一ですが、磁気(シリカ)ビーズ法はスピンカ ラム法でみられる“目詰まり”がなく、高い洗浄力を示すため、純度や濃 度の高い DNA を得ることが可能です。 FFPE からの DNA 抽出においては、高純度かつ PCR 阻害を受けない DNA を得るために、脱パラフィン・組織溶解・脱クロスリンク・RNA 除去などの 前処理が重要です。 Maxwell® RSC DNA FFPE Kit には、それぞれに最適な試薬がすべて含まれて います。さらに、ライセートに含まれる DNA を単離するために、広く使わ れているスピンカラム法に対して、Maxwell® では、磁気(シリカ)ビーズ 法を採用しています。 FFPE から次世代シーケンス(NGS)グレードのゲノム DNA を抽出するためのポイント Maxwell® RSC 使いの達人に教わる 困難サンプルの 鉄板ラボ内プロトコール FFPE 目的の DNA 配列を増幅したり プローブを結合させることができる 目的の DNA 配列が切断され、 プローブを結合させることが不可能 断片化していない DNA 断片化した DNA ここ 3 3 が 3 肝心! 3 333 プロトコール 1 野外植物 イチゴ 特集 2 クローズアップ解説 ~ FFPE 作製から NGS グレードの DNA 抽出まで~ Maxwell® RSC Instrument (自動核酸抽出装置) 他社 DNA 抽出カラム (用手法) No. 概算面積 DIN A260/280 ng/µL DIN A260/280 ng/µL 1 16 4.2 1.94 3.96 NA 2.18 2.34 2 49 4.6 1.48 4.68 3.2 2.25 2.02 3 150 1.7 1.99 42.2 1.8 1.96 36.2 4 360 2.1 2.14 13.4 1.9 2.00 14.9 5 1080 2.7 1.82 29.8 NA 2.01 NA 磁気(シリカ)ビーズ法 *DIN:DNA の断片化を表す指標。断片化が進む程、小さい値を示す。 Maxwell® RSC DNA FFPE Kit スピンカラム法 磁気(シリカ)ビーズ法とスピンカラム法の比較 ラボプロトコール マッピング • 【病理医】 • トリミング範囲を決定 • 腫瘍細胞含有率を算出 品質チェック • 濃度(ng/µL)測定:Qubit • DIN 値測定:テープステーション • この後、Library 作製などに使用 DNA 抽出:前処理 • Maxwell® RSC FFPE kit(カタログ番号 A1450)を使用 • FFPE 検体の入った 1.5 mL チューブにミネ ラルオイルを 400 µL 添加 • 80℃のヒートブロックで 2 分⇒パラフィン 溶解 • 1 分放熱後、Proteinase K master mix 溶液 (青)を 250 µL 加え混和⇒ 12000 x g 30 秒遠心 • 56℃で 30 分間組織溶解後、80℃で 4 時 間インキュベート • 室温に戻し RNase10 µL 加 え 5 分放置 ⇒ 12000 x g 5 分遠心 HE 染色作製 • FFPE 作製 • 薄切 • 染色 DNA 抽出:精製 • Maxwell® のプレートにカートリッジをセット • 抽出用チューブに Kit 付属の Elution 水 50 µL を入れる • カートリッジの第 1 槽目に前処理の水層 (青色液部)を全量移す • 第 8 槽 目 に プ ラ ン ジャー を 入 れ て、 Maxwell® RSC 本体にセット • プログラムを選択し、精製スタート⇒約 40 分強で DNA 抽出液完成 トリミング • 10 µm 厚でノンコートガラスに未染標本を 5 枚作製 • マッピングに合わせて腫瘍部を削り取り 1.5 mL チューブに採取 • トリミングが不要の場合は 10 µm 厚の ロールを直接チューブに採取 1 5 3 2 6 4 A B C D A C D B 特集 サンプルの混和 ビーズの捕捉 核酸の結合 ビーズの洗浄 核酸の溶出 Sample Mixing Particle Capture Nucleic Acid Binding Particle Washing Nucleic Acid Elution 1 2 3 4 5 6 7 12624MB Plunger Sample 1 2 3 4 5 6 7 Magnet 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 Sample Mixing Particle Capture Nucleic Acid Binding Particle Washing Nucleic Acid Elution 1 2 3 4 5 6 7 12624MB Plunger Sample 1 2 3 4 5 6 7 Magnet 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 Sample Mixing Particle Capture Nucleic Acid Binding Particle Washing Nucleic Acid Elution 1 2 3 4 5 6 7 12624MB Plunger Sample 1 2 3 4 5 6 7 Magnet 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 Sample Mixing Particle Capture Nucleic Acid Binding Particle Washing Nucleic Acid Elution 1 2 3 4 5 6 7 12624MB Plunger Sample 1 2 3 4 5 6 7 Magnet 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 Sample Mixing Particle Capture Nucleic Acid Binding Particle Washing Nucleic Acid Elution 1 2 3 4 5 6 7 12624MB Plunger Sample 1 2 3 4 5 6 7 Magnet 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7 Maxwell® RSC(カタログ番号 AS4500) Maxwell® RSC を使うには理由がある Maxwell® RSC は 1 ~ 16 個のサンプルから同時に核酸精製できる装置です。多検体処理時の労力 削減だけでなく、①結果のバラツキを低減でき、②研究時間を創出し、③ヒューマンエラーを 抑制できるという利点のため、多くのラボでサンプルが数個の場合でも利用されています。 20 種類以上のアプリケーション DNA、RNA はもちろんのこと、ccfDNA や miRNA 抽出も可能です。均一な培養細胞から複雑な環境サン プルまで様々なサンプルからの精製実績があり、幅広い研究をカバーできます。さらに、核酸精製が困 難なサンプルでお悩みの方には、弊社で精製条件を検討するサービスも提供しています(6 ページ参照)。 目詰まり問題が存在しない精製システム プレパックのカートリッジ式専用試薬を用い、サンプル中の核酸を磁性体ビーズに結合させ、プランジャーで磁性体ビーズを移動させて精製します。 粘性サンプルや夾雑物を含む精製困難なサンプルでも、詰まることなくスムーズに精製できます。 3Promega KAWARABAN