タンパク質の部分変性を回避! 新たなタンパク質消化法
第五回目は「ペプチドマッピング」のお話です。 バイオ医薬品の多くが抗体やホルモンなどのタンパク質製剤です。タン パク質製剤の品質管理ではタンパク質一次構造の解析が重要項目の一 つであり、この解析法の一つにペプチドマッピング(ペプチドマップ法) があります。ペプチドマッピングとは、タンパク質を化学的または酵素 的に消化してペプチド断片化し、ペプチド単位で検討する方法です。ア ミノ酸配列をはじめとする様々な情報が得られるため、特に酵素消化 による断片化プロトコールはバイオ医薬品の品質評価法として広く使用 されており、アメリカ、EU、日本の 3 者間で国際調和が検討されてい るテーマの一つです。 ただし現状では解決すべき問題もあります。そのうちの一つがタンパク 質分解中にアミノ酸残基の脱アミド化やジスルフィド結合スクランブ リングといった変性が起こってしまうことです。これらの問題はタンパ ク質品質評価を困難にさせ、長い間タンパク質解析担当者を悩ませて きました。この問題を解決すべく、プロメガは脱アミド化やジスルフィ ド結合スクランブリングを最低限に抑えられるタンパク質酵素消化シス テム AccuMap™ Low pH Protein Digestion kit を開発しました。 ①タンパク質脱アミド化の抑制 タンパク質が脱アミド化されると、主にアスパラギン残基がアスパラ ギン酸またはイソアスパラギン酸に変換されます(図 1 左)。この反応 が起きると、もともとアスパラギン酸だったのか、サンプル調製中に変 換されたのか見分けがつかなくなり、アミノ酸配列決定に大きな影響 を与えます。この脱アミド化はアルカリ性条件で起こりやすいため、ア ルカリ性条件で反応させるトリプシン消化ステップが原因の一つでし た。脱アミド化を最低限に抑えるためには酸性条件下でトリプシン処理 すればよいのですが、酸性ではトリプシン活性が低下してしまい断片化 が不十分になるジレンマがありました。プロメガはこの問題を解決する ため様々な検討を行い、酸性条件下ではトリプシンのリジン残基切断 効率のみが低下し、アルギニン残基の切断活性には影響がないことを 突き止め、酸性条件下でも活性を保つ特別な Lys-C と組合せることに より脱アミド化を起こさず効率よくペプチド断片化できる手法を開発し ました(図 1 右)。 ②ジスルフィド結合スクランブリングの抑制 脱アミド化と並んで大きな問題となっているのがジスルフィド結合スク ランブリングです。 ジスルフィド結合は適切な三次元構造を確立・維持するのに重要であり、 タンパク質製剤などの機能維持に非常に重要です。このためジスルフィ ド結合の位置を決定することはタンパク質構造解析上重要な項目です。 しかし、ペプチド断片化処理ステップにおいては、ネイティブなジスル フィド結合が開裂するだけでなく、しばしば本来とは異なる位置で結合 を形成してしまいます。これがジスルフィド結合スクランブリングと呼 ばれる現象であり、タンパク質のシステイン残基数が増加するにつれて 飛躍的に解析が困難になります。たとえばシステイン残基 8 個を含む タンパク質の場合、対を形成しうるジスルフィド結合の組合せが計 105 個あります。抗体医薬品としては最も多いヒト IgG1 やヒト化 IgG1 には ジスルフィド結合を形成しうるシステイン残基が 28~32 個あると言われ ており、組合せはより複雑になります。 ジスルフィド結合スクランブリングもアルカリ性条件で起こりやすいた め、脱アミド化抑制と同じく酸性条件でサンプル処理すれば大幅に抑 制できます(図 2)。 ③酸化防止およびその他の条件検討 脱アミド化、ジスルフィド結合スクランブリングに次いで、メチオニン 残基の酸化もペプチドマッピング解析に悪影響を与えます。プロメガで は様々な脱酸素剤を検討し、もっとも酸化防止効果が高かったものを Oxidation Suppressant としてキットに添付しています。 また酵素反応条件を酸性に最適化するため、タンパク質変性ステップ や還元アルキル化ステップの条件もすべて最適化しており、ペプチドマッ ピング解析サンプル調製全ステップをカバーするプロトコールを開発し ました。解析したいタンパク質と AccuMap™ Low pH Protein Digestion kit だけ用意すれば、ペプチドマッピングの悩みは解決します!お困りの方 はぜひ一度お試しください。 抗体の構造解析に必須の IdeS や IdeZ プロテアーゼはご存知ですか ? タンパク質の部分変性を回避! 新たなタンパク質消化法 バイオ医薬プロジェクト 抗体医薬に代表されるバイオ医薬品の研究開発が加速しています。このセクションでは、抗体医薬の研究・評価試験のうち従来法の問題を新たな技 術で克服したアッセイや、従来法では対応できなかった新しいニーズに応えるアッセイをシリーズでご紹介していきます。 プロメガ 抗体医薬 検索 図 1. 脱アミド化メカニズム(左)と Low pH digestion による脱アミド化抑制(右) 図 2. ジスルフィド結合スクランブリング 関連製品 製品名 サイズ カタログ番号 価格(¥) AccuMap™ Low pH Protein Digestion kit ー ー お問合せ下さい Rapid Digestion Kit – Trypsin 100 µg VA1060 35,000 Rapid Digestion Kit – Trypsin/Lys-C 100 µg VA1061 53,000 アスパラギン酸 アスパラギン 元のペプチド 脱アミド化ペプチド 脱アミド化 されない 従来法 Low pH digestion Low pH digestion による IgG 脱アミド化抑制 イソアスパラギン酸 スクシンイミド中間体 スクランブル化 S-S 結合 TPEVTCVVVDVSHEDPEVK SFNRGEC スクランブル化 S-S 結合 スクランブル化されない 従来法 Low pH digestion Cys265(重鎖):Cys213(軽鎖) 短時間でも優れた消化を示す Rapid Digestion Kit サンプルが届いたら、とにかくすぐに結果がほしい!という方には Rapid Digestion Kit がお勧めです。 サンプルを化学的に変性させるのではなく、熱変性させることにより大 幅な時間短縮が可能になりました。これまで一晩かかっていた酵素消化 ステップがたったの 30 分で終了します! 図 3. Rapid Digestion Kit によるインシュリンの消化 アルカリ性 本来の S-S 結合 S-S 結合スクランブリング スクランブル化 した S-S 結合 ※ IdeS や IdeZ はかわら版 2016 年夏号をご覧ください▶ http://www.promega.co.jp/pdf/ kawara1607_p2.pdf 3Promega KAWARABAN