テックの一言コラム_2015年11月号 これから創薬を始める方へ ~ 細胞内分子間相互作用のすすめ ~
これから創薬を始める方へ[Vol. 6] ~ 細胞内分子間相互作用のすすめ ~ 2015 年11月号 タンパク質の分子間相互作用の検出にはさまざまな手法が開発 されています。 非常に多く用いられているのがセルフリー系で、非常にクリアな 結果を引き出すことができますが、役者がすべてそろっている のかを含めて生体内の環境を反映することができません。そこ で実際に細胞内での観察が望まれます。 細胞内分子間相互作用を見るために、融合タンパクを用いた手 法では、いわゆる実細胞という自然に近い環境で観察すること ができます。この分子間相互作用が不可逆的あるいは親和性が 高い場合は、免疫沈降法や質量分析などを用いて解析すること ができますが、細胞を破壊しなければなりませんし、定性的な ものとなります。 一方、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を用いた 生細胞内での分子間相互作用が多く報告されています。細胞内 FRET は検出にイメージングが多用され、非常にクリアかつ個々 の細胞での現象として結果を導きます。ただ多くの細胞を用い ての定量は得意としていません。これは顕微鏡を用いての観察 であり、イメージを数値化することに加えて、細胞自身が蛍光を 持っていることが一つの大きな原因でもあります。薬剤評価を 目的とし、測定時に薬剤が存在する操作の簡単な Homogenous assay の場合、薬剤の自家蛍光も影響があります。こんな中、多 くの細胞を用いて測定し、定量性のある発光法が活躍します。 BRET(Bioluminescence RET)は、FRET のドナーの蛍光物質を、 ルシフェラーゼにしたもので、励起の必要がなく、細胞や薬剤 のもつ蛍光の影響がありません。しかし発光はシグナルが弱い ゆえに、一部のエネルギーが転移した BRET シグナルは更に小さ く、検 出が む ずかしいものでした。そこで、Promega では NanoLuc® を開発しました。蛍光でハロゲンランプしかなかった ところに、レーザー が突然あらわれた感じでしょうか。これを BRET で最大限生かすべく、最適なアクセプターも探し、オリジ ナルの BRET よりも、大きなシグナルが得られ、使いやすさを 追求しました。NanoLuc® を用いていることから、この製品を NanoBRET™ と名付けました。 BRET を使うことにより、多くのタンパク相互作用が確認されて います。興味深いものの一例として、Histone H3- Bromodomain BRD4 の結合が例に挙げられます。細胞内では H3 は他のヒストン と会合、さらに DNA とともにクロマチン構造をとっています。ま た BRD4 は実際にアセチル化された H3 に結合をします〈Fig 1〉。 細胞内ではこのように複雑な複合体と結合していると考えられて いますが、この状況を セルフリー系で再構成することは容易で はありません。NanoBRET™ では、BRD4-NanoLuc® の融合タンパ クを、アクセプターである蛍光 HaloTag® リガンドの結合する HaloTag®-Histone H3 の融合タンパクを細胞内に発現させることに より、細胞内における H3-BRD4 結合をシグナルとして検出する ことができます。この実験系での H3-BRD4 結合阻害剤の評価は、 生体内での環境にきわめて近い状況での評価である言えます。 クロマチン構造はよく知られた例ですが、実際に細胞内でのタン パクがどのような状況にあるかは不明なことが多いと思われる だけに、こうした細胞を用いた相互作用検出はより in vivo に近 い評価系として利用できます。 また、細胞内での評価はタンパク質間の相互作用にかぎらず、 薬剤と標的タンパクとの結合についても利用できます。Promega では、アクセプター蛍光物質を標識したトレーサーを作成し、 このトレーサーと NanoLuc®- 標的分子との結合実験に他の薬剤 の結合阻害をみることにより、細胞内での結合阻害を観察する ことに成功しました(target engagement)〈Fig 2〉。 この系を応用することにより、薬剤の標的タンパクとの結合時 間 residence time を測定することもできます。この residence time は薬効に関係していると言われていますが、従来のセルフリー 系に加えて、実際に細胞内での測定が可能になってきました。 これまでに、標的タンパクと薬剤の NanoBRET™ による結合試 験を、Kinase, Bromodomain, HDAC について実施することに成功 しました。 ここに述べました NanoBRET™ による分子間相互作用につきまし て、詳細をご希望の方はお気軽にお問合せください。 テクニカルの ひ こ と と コラム Histone H3 Ac K BRD4 NanoLuc JQ1 HT 〈Fig 1〉JQ1 が H3-BRD4 結合による BRET シグナルを阻害する 〈Fig 2〉標的タンパクとトレーサーの結合を化合物が阻害する 標的タンパク 標的タンパク NLuc NLuc トレーサー テクニカルサービス Tel. 03-3669-7980/Fax. 03-3669-7982 E-Mail : prometec@jp.promega.com プロメガ株式会社 本 社 〒103-0011 東京都中央区日本橋大伝馬町14-15 マツモトビル Tel. 03-3669-7981/Fax. 03-3669-7982