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プロメガ実験ノート vol.7 Glucose Uptake-Glo™ Assayを用いた、 がん転移組織の新規評価方法

22 プロメガ株式会社 はじめに がん細胞が発生した組織から離れ、血管やリンパ系を介して他臓器に進展する転移は、がんという病気の悪い側 面の1つです。がん転移を克服するために、転移を評価するモデル系や転移を抑える方法の研究がなされてきまし た。この中で、肺にがんが転移する肺転移モデルの評価では、一般的に肺表面に形成された結節数や肺重量にて評 価が行われています。これらの方法では、結節の大きさや肺組織内部の腫瘍、動物の個体差による影響は考慮され ていないことが懸念点となります。また、in vivoイメージング装置を用いた検出法においては、転移したがん細胞 数が一定数に達しなければ検出できない点、専用の動物用の測定装置が必要になる点、転移抑制作用を定量的に評 価することが難しい点などが課題となっています。 筆者らは過去に、ヒト線維肉腫由来ルシフェラーゼ遺伝子導入細胞株RM72を用いた実験において(Fig1)、転移 の初期段階を定量的に捉えることができる手法を構築しました [1]。ただ、この評価系では移植するがん細胞の外 来性の遺伝子を導入する必要性があり、遺伝子導入や発現細胞の選択中にがん細胞の性質変化が懸念されます。そ こで、筆者らはがん細胞が有する特徴的な代謝に着目し、グルコースの取り込み活性をルシフェラーゼ発光として 検出するGlucose Uptake-GloTM Assayをin vivoに応用し、転移したがん細胞を有する肺組織と正常肺組織の発 光値の違いを検出する事に成功しました。本手法は、今後の糖取り込みに関する研究のツールの1つとなることが 期待されますので、ここで紹介致します。 2. 実験デザインとアッセイ条件の検討 高転移性のマウス乳がん細胞4T1を用いた肺転移モデルにて検討を行 いました。実験の流れをFig3Aに示しています。移植前にBALB/cマウス の体重値が均等になるよう各群3匹に群分けし、無移植群を除く動物の 側腹部皮下に4T1細胞を1×106 cells/siteで移植。その後、体重及び腫 瘍径の測定を週に1回以上の頻度で行いました。移植後3週間目の動物 に種々の濃度の2DGを投与し、投与後の動物をイソフルランの吸入麻酔 での放血により安楽死させた後、腫瘍及び肺を摘出し、重量を測定しま した。その後、 Glucose Uptake-GloTM Assayを用いて肺のホモジネー トにおけるルシフェラーゼの活性を測定しました(Fig3 C)。 筆者らの予備検討において、2DG投与24時間後で良好なシグナルが 得られました。この検討においては10,000 nmol/匹で最も高い発光が みられ、ばらつきが小さいことから、 10,000 nmol/匹が最適条件であ ることが示唆されました。また、がん細胞のグルコースの取り込み能の 差を活用し、Glucose Uptake-Glo™ Assayにて転移したがん細胞を有 する肺組織と正常肺組織の発光値の違いを検出する事ができました。 株式会社ケー・エー・シー バイオサイエンス事業部 筑紫未津穂様、常富麻衣様 Glucose Uptake-Glo™ Assayを用いた、 がん転移組織の新規評価方法 Fig 3 組織サンプルを用いたGlucose Uptake-GloTMアッセイの予備検討 A.マウス乳がん細胞株4T1を用いた実験デザイン B.無移植群の肺(上)とがん細胞 移植群の肺(下)。黄色矢印は結節を示す。 C. 2DGを種々の濃度でi.v.投与し、24 時間後に組織を摘出し、 Glucose Uptake-GloTMアッセイを行った。2DG非投与群 の発光値をバックグラウンドとし、各サンプルの発光値を差し引いた結果を示した。 Fig 1 ホタルルシフェラーゼ発現 がん細胞(RM72)のin vivoイメー ジング 1. Warburg効果と発光法での糖取り込み活性の評価 Warburg効果とは、がん細胞が有酸素下でも解糖系でエネルギーを 産生する現象であり、Otto Warburg博士により見出された現象です。 グルコースががん細胞内に取り込まれた後、解糖系で代謝されピルビ ン酸となり、その後、乳酸に変換され、細胞外に排出されます(Fig2 A)。Warburg効果が見出されてから約90年が経ちますが、この現象が がん細胞の生存や増殖にどのようなメリットとなっているのかに関し ては未解明な点もあり、がん微小環境や特異的ながんの代謝などに対 応するため適応との考えも提示されています[2]。その一方で、 Warburg効果はがんの局在診断の1つであるFDG-PETとして、すでに ヒトに臨床応用されています。今回、筆者らはFDG-PETをヒントに今 回の実験系の検討を始めました。 検討開始当初、FDG-PETと同様にグルコース類似体2DG(2-DeoxyD-glucose)に蛍光標識したプローブを使用し、イメージングでの評価 を行いました。しかし、in vivoでの蛍光イメージングでは高いバック グラウンドや蛍光プローブの感度が問題となり、良好な結果は得られ ませんでした。 そこで次に着目したのがプロメガのGlucose Uptake-GloTMになりま す。2DGは細胞内に取り込まれると、解糖系の最初のステップでのみ 代謝され、それ以降は2DG6Pとして細胞内に蓄積します。プロメガの Glucose Uptake-GloTMでは蓄積した2DG6Pを最終的にルシフェリン A B Fig 2 Warbug効果と発光アッセイの原理 A. がん細胞で解糖系経路が亢進し、糖 の取り込みと乳酸の分泌が行われている。B. Glucose Uptake-GloTMの原理。糖の 取り込み活性を発光シグナルに変換して評価する。 Vol. 7 に変換し、糖取り込み活性を発光シグナルにて評価する系となります (Fig 2B)[3]。従来の吸光法や蛍光法では組織中の残渣等がバックグラ ウンドに繋がる懸念もあり、発光法での検討に取り組みました。 A B C 無移植 10 nmol 肺全体における発光量 無移植 100 nmol 無移植 1000 nmol 無移植 10000 nmol 移植 10 nmol 移植 100 nmol 移植 1000 nmol 移植 10000 nmol 1. 高橋 大祐, 隅田 真実, 筑紫 未津穂, 畑中 美穂, 竹内 正典, 三浦 義記.ヒト線維肉腫由来ルシフェラーゼ遺伝子導入細胞株RM72の皮下移植ヌー ドマウスにおける肺転移評価法の検討.第43回日本毒性学会学術年会 2. Liberti, M. V. & Locasale, J. W. The Warburg Effect: How Does it Benefit Cancer Cells? Trends Biochem Sci 41, 211–218 (2016). 3. Valley, M. P. et al. A bioluminescent assay for measuring glucose uptake. Anal. Biochem. 505, 43–50 (2016). 4. 筑紫未津穂, 高橋大祐, 隅田真実, 畑中美穂, 常富麻衣, 三浦義記. Glucose uptake Assayによるがん転移及び造腫瘍性に関する新規評価法の検 討. 2017年 日本再生医療学会 P-03-035 3. 抗がん剤投与における、がん転移組織の評価 Fig3の結果より、実際の抗腫瘍試験を想定して、抗がん剤投与後に肺 組織中に残存するがん細胞の評価を試みました(Fig 4)。その結果、ド キソルビシン投与群において腫瘍体積の減少(Data not shown)と肺重 量の減少(Fig 4 A)が観察されました。加えて、約2倍程度のルシフェ ラーゼ活性の低下がみられ、2DGを複数回投与した群も同様の結果が 観察されました。一方で、今回、2DGの取り込み量の増加を期待して 2DGの投与回数を増加しましたが、投与回数を増やすことによる発光 値の増強は観察できず、むしろ2DGを複数回投与した群では単回投与 群よりも低い発光値を示しました。このことから、2DGの投与回数は 増やさず、単回投与が適切であることが示唆されます。 抗がん剤を用いた抗腫瘍試験でもルシフェラーゼ活性測定は問題なく 行えた事から、Glucose Uptake-Glo™ Assayキットを用いた評価系は 有効であることが示唆されました。しかしながら、S/N比が低いことな ど課題が残るため、今後も検討が必要と考えています。 Fig 4 抗がん剤投与マウスにおける肺重量 の変化と発光値の変化 A. マウス各群の 肺重量の比較 B. 肺組織0.1gにおける発 光値の比較 Fig3と同様の手順にてマウスの群分け、 4T1細胞の移植を実施した。移植7日後か ら、週に1回ドキソルビシンドキソルビシ ン(8mg/kg)をi.v.投与、計4回投与した。 ドキソルビシン投与が完了した翌日から、 2DG(10,000 nmol/匹)を4日間にかけて 4回投与した。また2DG投与単回では屠殺 予定日の前日に投与を行った。マウスを屠 殺し、肺重量と肺ホモジネートにおける発 光値を測定した。 受託試験(造腫瘍試験、動物試験、毒性試験)の お問合せはこちら http://www.kacnet.co.jp/ A B プロメガ株式会社 本 社 〒103-0011 東京都中央区日本橋大伝馬町14-15 マツモトビル Tel. 03-3669-7981 / Fax. 03-3669-7982 大阪事務所 〒532-0011 大阪市淀川区西中島6-8-8 花原第8ビル704号室 Tel. 06-6390-7051 / Fax. 06-6390-7052 日本語 Web site : www.promega.jp テクニカルサービス ● Tel. 03-3669-7980 / Fax. 03-3669-7982 ● E-mail: prometec@jp.promega.com 販売店: PKS180601 *製品の仕様、価格については2018年6月現在のものであり予告なしに変更することがあります。 プロメガ社のキットでは組織サンプルを用いた事例がなかったた め、ホモジネート作製の条件や希釈倍率、マウスへの2DG投与量 や投与時間を検討する必要がありました。また、細胞でのアッセ イに至適化されているため、発光値および発光が観察できる時間 を確認する事をお勧めします。 最終的に試薬添加後、10-15分に発光がピークになる事が分かり、 このタイミングで測定を行うようにしています。また、発光測定 に関してはGlucose Uptake-Glo™ Assay自体のバックグラウンド レベルも高かったため、幅広い測定レンジに対応したプロメガ社 のGloMAX® Discover/Navigatorにて測定しました。 プロメガ学術部からのコメント マウスへの2DG投与の条件やバックグラウンドの発光値などの改善の 余地がまだありますが、除タンパクをせずに組織サンプルからでも安定 した測定が出来た事は発光アッセイの良さを示しており、嬉しい限りで す。また今回の知見は、脳や肝臓、筋肉などの組織にも応用できる可能 性があります。 株式会社ケー・エー・シーでは動物モデルや細胞を使った受託試験を実 施されております。発光測定技術をもとにさらなるアプリケーションを 創生していけたらと思います。 参考文献 製品名 サイズ カタログ番号 関連製品 Glucose Uptake-Glo™ Assay 5mL (50回分) J1341 こんなところで苦労しました