創薬ターゲットとしても大注目! 標的タンパク質分解をリアルタイムに検出!
標的タンパク質特異的分解誘導薬とは ユビキチン -プロテアソーム系でのタンパク質分解は、ユビキチンリガー ゼ(E3 リガーゼ)による標的タンパク質のユビキチン化から開始します。 これを利用し、標的タンパク質を E3 リガーゼと強制的に結合させてユ ビキチン化し、分解を促進する「標的タンパク質分解誘導薬」がいくつ も開発されています。PROTAC(Proteolysis Targeting Chimera)1) や日本で 開発されたSNIPER (Specic and Nongenetic IAP-dependent Protein ERaser)2) が代表的な技術です。これらの標的タンパク質分解誘導薬は標的タンパ ク質に結合する分子と E3 リガーゼに結合する分子をリンカーでつない だ二機能性の低分子化合物で、本来は相互作用しないタンパク質同士を 強制的に結合させることから「分子糊(Molecular Glue)」とも呼ばれてい ます(図 1A)。 これらタンパク質分解誘導解析では、標的タンパク質を過剰に発現させ るとわずかな変化量をとらえることが困難になるため、内在性レベルで リアルタイムに測定できるアッセイ法が望まれます。また重要な創薬ター ゲットであることから、簡便でスクリーニングに対応したアッセイ法であ ればより有用です。これまで基礎研究ではウェスタンブロッティング、 スクリーニングでは TR-FRET や AlphaLISA® などが使用されてきました。 しかしこれら抗体を用いる検出法は、多くの場合内在性レベルの発現解 析には検出感度が不十分です。さらにウェスタンブロッティングは時間 がかかり、操作も複雑であることがネックになっていました。 これらの点を解決するのが NanoLuc® テクノロジーを応用したアッセイで す。ここでは HiBiT タグを用いて目的タンパク質の発現量を迅速・高感 度に検出するアッセイ(図 1B)、および NanoBRET™ を利用して PROTAC による目的タンパク質と E3 リガーゼの相互作用を検出するアッセイ(図 1C)をご紹介します。 高発光タグ HiBiT を用いたタンパク質ダイナミクス検出法 HiBiT は内在性レベルの発現量でも十分検出できる感度を持ち、かつサ イズが非常に小さく(11 アミノ酸)、ゲノム編集で容易に標的タンパク 質にノックイン(タギング)できることから、内在性レベルのタンパク 質発現量解析に最適です(3 ページ参照)。検出操作も簡便であり、細 胞に1種類の検出試薬(LgBiT タンパク質と発光基質を含有)を添加す るだけで発光します。ウェスタンブロッティングのようにエンドポイン ト解析する場合、必要なものは HiBiT タグを付加した目的タンパク質、 HiBiT 検出試薬とルミノメーターのみです(図 2)。HiBiT タグ付加標的 タンパク質は発現量に気を付ければベクター(低発現用プロモーターを 推奨。3 ページ参照)で外来性に発現させることも可能です。 一方リアルタイムモニタリングを行う場合は、HiBiT タグ付加標的タンパ ク質に加えて LgBiT タンパク質を安定的に発現させる必要があります が、発光測定する際は Nano-Glo® Live Cell Reagent を添加するだけです。 図 3 はゲノム編集で HiBiT を付加した BRD4 のリアルタイムモニタリング 例です。このデータから 2 種類の PROTAC (dBET1 or MZ1) 処理により 3 時間以内に BRD4 発現量が低下すること、また MZ1 の方が速やかに BRD4 量を低下させることが分かります。 PROTAC によるタンパク質相互作用誘導解析 より詳細な解析を実施したい場合は、NanoBRET™ テクノロジーを用い て、PROTAC による標的タンパク質と E3 リガーゼの相互作用誘導をモ ニターすることも可能 です(図 1C)。図 4 は dBET1 による BRD4 と Celebron の相互作用カイネティクスを検出したデータです。dBET1 添加 後 1 時間でほぼシグナルがプラトー に達し、BRD4 と Celebron が結合し たことを示しています。 新たなモダリティとしても注目され るタンパク質分解誘導の基礎的な実 験にも利用できる HaloTag PROTAC 試薬(HaloTag® 融合タンパク質分解 誘導化合物)も開発中です。ご興味 がある方はお問合せください。 まとめ NanoLuc® 最新技術により、生きた細胞でのタンパク質分解をリアルタイ ムに解析できるようになりました。特に内在性レベルでのタンパク質動態 を追うことができる HiBiT でのモニタリングはユビキチン -プロテアソー ム系の解析に限らず、他の系にも応用できるシンプルでフレキシブルな技 術です。次のページではオートファジー解析への応用事例を紹介します。 創薬ターゲットとしても大注目! 標的タンパク質分解をリアルタイムに検出! ありのままの細胞解析プロジェクト 古くから細胞内タンパク質分解の破綻が疾患を引き起こすことが知られており、特にアルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患の原因とし て有名です。代表的なタンパク質分解系としてはオートファジーと並んでユビキチン -プロテアソーム系が挙げられます。がん細胞ではタンパク質分解系 を阻害して異常タンパク質を蓄積させることにより細胞死を誘導することからプロテアソーム阻害剤がすでに抗がん剤として使用されています。また最 近は標的タンパク質を強制的にユビキチン化し、分解促進する PROTAC などの標的タンパク質特異的分解誘導薬に注目が集まっており、創薬ターゲット として今非常にホットな分野です。しかしながら、細胞内タンパク質分解をハイスループットで、さらにはリアルタイムでモニターすることが難しく、解決 すべき課題の一つとなっていました。このセッションでは、プロメガが開発した発光リアルタイムタンパク質モニタリング法とその応用事例をご紹介します。 参考文献 1) Sakamoto, Kathleen M. et al. PNAS 98.15 (2001): 8554–8559. 2) Itoh Y. et al. (2010) J. Am. Chem. Soc. 132, 5820–5826 図 1. 標的タンパク質特異的分解誘導薬解析ツールの原理 A. PROTAC の模式図。B. HiBiT タグを付加した BRD4 タンパク質分解を発光値として直接 的にモニター。C. HaloTag® 付加 Celebron と NanoLuc® 付加 BRD4 の相互作用を BRET に よりモニター 図 3. HiBiT リアルタイム タンパク質分解アッセイデータ BRD4 遺伝子にゲノム編集で HiBiT をノックインし、さらに LgBiT を安定発現させた HEK293 細胞での BRD4 モニタリングデータ。PROTAC(dBET1 および MZ1)処理により BRD4 量が減少する様子を HiBiT 発光で検出した。 図 4. NanoBRET™ を用いた dBET1 による Celebron-BRD4 相互作用のカイネティッ ク測定。 Ub Ub HaloTag® HiBiT(11アミノ酸) 標的タンパク質 リガンド E3 リガーゼ 認識ドメイン Ub Ub dBET1 BRD4 Celebron (E3 Ligase) Ub Ub Ub Ub BRD4 PROTAC(dBET1など) 基本構造 標的タンパク質存在量をモニター 標的タンパク質とE3リガーゼの タンパク質間相互作用をモニター A B C dBET1 Celebron (E3 Ligase) NanoLuc® dBET1 処理 分解 発光測定 HiBiT 検出試薬 (細胞溶解 & LgBiT / 基質供給) or BRD4-HiBiT 発現ベクターを トランスフェクション 内在 BRD4 ローカスにHiBiTを タギング(ゲノム編集) Time(hr) 1.0 0.5 0.0 0 1 2 3 Endogenously expressed HiBiT-BRD4 in HEK293 cell line expressing LgBiT Relative RLU Untreated 1μM dBET1 1μM MZ1 PROTAC無し PROTAC有り → BRD4 分解 Time(hr) +dBET1 – dBET1 5 10 15 20 25 0 0 50 100 150 BRET Ratio(mBU) 関連製品 製品名 サイズ カタログ番号 価格(¥) Nano-Glo® HiBiT Lytic Detection System 10 ml N3030 26,000 Nano-Glo® Live Cell Assay System 100 回分 N2011 28,000 CMV LgBiT(KanR/HygR)Vector – カスタム品 80,000 NanoBRET™ PPI MCS Starter System 1 セット N1811 180,000 NanoBRET™ PPI Flexi® Starter System 1 セット N1821 150,000 ※カタログ番号 が“カスタム品”となっている製品のご注文については promega.formstack.com/forms/casorder 図 2. HiBiT エンドポイントタンパク質分解アッセイ例 よりお申込みください( プロメガクラブへの入会が必要です)。 4