新しいpGL4 ルシフェラーゼレポーターベクター使用による転写解析の応答性ダイナミクスの向上
6 アブストラクト 本稿では、一過性および安定性トランスフェクション実験に適した、 遺伝子発現に関連する生理的なパスウェイの研究を加速させる新しい pGL4 Luciferase reporter vectorを紹介します。 イントロダクション DNA配列である応答エレメント (RE) の活性を測定するレポーター遺 伝子アッセイは、転写因子の特異的な活性化を誘導する細胞内シグナ リング経路を調べる上で有用です。ルシフェラーゼは、その特長であ る広いダイナミックレンジや高い感度、定量の容易さ、内在活性の欠 如などにより、応答エレメントの研究やハイスループットな薬剤スク リーニングおよびターゲットの検証などのアプリケーションに理想的 なレポーターとして利用されています (1)。pGL4ベクターは、哺乳動 物細胞での発現を向上させるために行われたレポーター遺伝子のコド ンの最適化や転写ダイナミクスに対して迅速に応答するレポーター遺 伝子の導入、安定細胞株作製を容易にする哺乳動物用選択マーカーの 付加などレポーター遺伝子技術に幾つもの利点が付加されました (2)。 応答エレメントの活性を分析する際に最適な結果を得るためには、応 答エレメントによるレポーター遺伝子の誘導(ダイナミックレンジ) が高レベルで、なおかつ基底活性(バックグラウンド)を低く維持さ せる必要があります。 本稿で紹介するpGL4ベクターの新しいシリーズ (pGL4.23~ pGL4.28) には、一過性または安定性トランスフェクション実験の両方 において高いダイナミックレンジで応答エレメントの活性検出を補助 する最小限プロモーターが含まれています。これらのベクターでは、 基底発現を低レベルに維持し、応答エレメントが活性化されると高レ ベルのルシフェラーゼ発現が起こります。また、我々は、最小限プロ モーターと組み合せたcAMP応答エレメント (CRE) またはNFAT-応答エ レメントおよびluc2P 合成ホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子を有 するpGL4.29およびpGL4.30ベクターを導入しました。これら最小限プ ロモーターと応答エレメントを含むベクターは、応答エレメント活性 の研究やハイスループットスクリーニングに要求される良質な一過性 トランスフェクションアッセイおよび安定性レポーター細胞株の開発 を加速させることができます。 発現の最適化、オフターゲット応答の低減 および迅速な転写効率変化の検出 pGL4ベクターは、最適なルシフェラーゼ発現、オフターゲット応答 の抑制、転写ダイナミクスに対する迅速な応答を可能にするために開 発されました。これまで、pGL4ベクターを用いた応答エレメント活性 分析のためのアッセイには、最適なレポーター発現を行うための目的 応答エレメントとプロモーター両方のクローニングが必要でした。こ の新しい最小限 プロモーターpGL4ベクターにはルシフェラーゼ発現の バックグラウンドレベルを低く維持するTATA Boxと最小限プロモー ター配列が含まれています。レポーターアッセイの応答キネティクス は迅速に応答するルシフェラーゼの使用により最適化することができ、 安定性レポーター細胞株はハイグロマイシンB 選択マーカーを含むベ クターの使用により作製することができます。表1に新しいpGL4ベク ターの特長をまとめています。このベクターシリーズで提供されるオ プションにより、良質な一過性のトランスフェクション/安定性細胞 株によるレポーターアッセイを構築するために目的の応答エレメント をベクターに組み込み、カスタマイズすることが可能になりました。 最小限プロモーターpGL4ベクターの開発にあたり、我々は最小限 プ ロモーターと汎用されるヘルペスシンプレックスウイルスチミジンキ ナーゼ (HSV-TK) の一部の活性を比較し、どちらが非誘導状態のルシ フェラーゼを低く抑えつつ高いダイナミックレンジを示すかを見極め ました。この分析には、CREと最小限 プロモーター またはHSV-TKプ ロモーターの一部をluc2P レポーター遺伝子の上流にクローニングした pGL4レポーターベクターを用いました。これらのベクターとウミシイ タケルシフェラーゼコントロールベクター pGL4.74 (カタログ番号 E6921)をコトランスフェクションしたHEK 293細胞をイソプロテレ ノールで内在受容体より誘導しました。ルシフェラーゼ活性はDualLuciferase® Reporter Assay Systm(カタログ番号 E1960)を用いて定 量しました。図1の結果は、最小限プロモーターベクター(pGL4.24- CRE)がHSV-TK プロモーターベクター(pGL4.11-CRE-TK)よりも非 常に高い誘導値を示しています。最大誘導時点(4時間)のホタルルシ フェラーゼレポーター活性を分析した結果、HSV-TKプロモーターを持 つベクターに較べて誘導時のルシフェラーゼ発現が同等レベルを維持 する一方で最小限 プロモーターベクターの非誘導時におけるルシフェ Enhanced Response Dynamics for Transcription Analysis Using New pGL4 Luciferase Reporter Vectors 新しいpGL4 ルシフェラーゼレポーターベクター使用による転写解析の応答性ダイナミクスの向上 By Brad Swanson, Ph.D., Frank Fan, Ph.D., And Keith Wood, Ph.D., Promega Corporation Prometech Journal www.promega.co.jp Number 23 2007 表1. 最小限 プロモーター および応答エレメントを含むpGL4 Vectorの特長 ベクター マルチクローニング領域 レポーター遺伝子 応答配列 哺乳動物選択マーカー pGL4.23 [luc2/minP] Yes luc2 No None pGL4.24 [luc2P/minP] Yes luc2P No None pGL4.25 [luc2CP/minP] Yes luc2CP No None pGL4.26 [luc2/minP/Hygro] Yes luc2 No Hygromycin B pGL4.27 [luc2P/minP/Hygro] Yes luc2P No Hygromycin B pGL4.28 [luc2CP/minP/Hygro] Yes luc2CP No Hygromycin B pGL4.29 [luc2P/CRE/Hygro] No luc2P CRE Hygromycin B pGL4.30 [luc2P/NFAT-RE/Hygro] No luc2P NFAT-RE Hygromycin B * luc2: 合成ホタルルシフェラーゼ遺伝子; luc2Pおよびluc2CP: PEST (luc2P)またはCL1およびPEST (luc2CP) の各分解配列を含むRapid ResponseTM ホタル ルシフェラーゼ遺伝子。 Prometech Journal www.promega.co.jp Number 23 2007 7 ラーゼ活性レベルが低く抑えられていることから高い誘導倍率が得ら れることが分かりました(図1、パネルB)。最適化したルシフェラーゼ 発現とともにこの最小限 プロモーターの低い基底活性をpGL4 Vector に導入した結果、広いダイナミックレンジと高い感度を有する優れた レポーターベクターが完成しました。 CREおよびNFAT-RE pGL4 Vectorを用いた GPCRパスウェイの研究 pGL4.29[luc2P/CRE/Hygro] およびpGL4.30[luc2P/NFAT-RE/Hygro] Vectorは、最小限 プロモーター の上流にそれぞれCREまたはNFAT-RE が組み込まれています。アゴニストにより受容体が活性化すると、 CREまたはNFAT-REを含む遺伝子が多くのGPCRにより活性化される ため、GPCRシグナル経路を分析する研究者にとってCREおよびNFATREレポーターアッセイは特に興味を集める方法になっています。Gαs 共役GPCRはCREを有する遺伝子を、Gαq共役受容体はNFAT-REを含 む遺伝子を活性化します(1, 3)。最小限プロモーターにより非誘導時 のルシフェラーゼ発現が抑えられ、最適化されたpGL4 Vectorのレポー ター発現が可能となり、pGL4.29およびpGL4.30 Vectorは広いダイナ ミックレンジで高レベルのレポーター遺伝子発現が誘導できるように なりました。両方のベクターは、迅速なアッセイキネティクスを示す luc2Pレポーター遺伝子を含み、安定細胞株作製を容易にするハイグロ マイシンB選択マーカーを有しています。これらの優れた改良により、 pGL4レポーターファミリーの利点を最低限の労力でご自身のセルベー スGPCR薬剤開発プラットフォームに取り入れることができます。また、 一過性のトランスフェクションアッセイにも非常に良く適しています。 pGL4.29およびpGL4.30レポーターベクターを含有するHEK293細胞 を用いた一過性のトランスフェクションアッセイでは、誘導後のルシ フェラーゼ発現で広いダイナミックレンジを示しました(図2)。 pGL4.29をトランスフェクションしたHEK293細胞を100µMフォルスコ リンで5時間誘導した結果、420倍の誘導を示しました。同様の実験で pGL4.30をトランスフェクションしたHEK293では1µM イオノマイシン および10ng/ml PMAで17時間誘導するとルシフェラーゼ活性が60倍に 増加しました。誘導されたルシフェラーゼ発現で得られる広いダイナ ミックレンジと高い発光は、ハイスループットスクリーニングで望ま れる高密度アッセイでこれらのベクターが非常に適していることを裏 付けています。 これらのベクターを用いて作製された安定細胞株は、pF9A CMV hRluc-neo Flexi® target expression vectorで目的の標的GPCRを安定に 発現させることによりさらにカスタマイズすることができます(4; 図 3)。これら2重にトランスフェクションした安定細胞株は、pF9A vectorより目的の標的GPCRとウミシイタケルシフェラーゼ(内部標準と して)の両方を安定に発現します。ホタルルシフェラーゼと並行して ウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定することにより、ホタルルシ フェラーゼレポーター活性を標準化し、変則的なサンプルを見つけ出 すことができます。この多重アッセイはシングル-レポーターアッセイ を凌ぐ利点を提供します。 6325MA 4 Hours 1 × 104 1 × 105 1 × 106 1 × 107 1 × 108 Luminescence (RLU) pGL4.11-CRE-TK uninduced pGL4.11-CRE-TK induced pGL4.24-CRE uninduced pGL4.24-CRE induced B. A. 0 50 100 150 200 250 300 0 1 2 3 4 5 6 7 Time (Hours) Fold Induction pGL4.11-CRE-TK pGL4.24-CRE pGL4.27-CRE 図1. CREによる活性化にともなう最小限プロモーターレポーターベクターからの 高レベルなルシフェラーゼ発現誘導 パネルA. luc2P レポーター遺伝子上流にCREおよびHSV-TK プロモーターの一部 を含むpGL4.11 (pGL4.11-CRE-TK)、CREを含むpGL4.24 (pGL4.24-CRE) また はCREを含むpGL4.27 (pGL4.27-CRE) をpGL4.74[hRluc/TK] ウミシイタケルシ フェラーゼコントロールベクターとともにHEK293細胞に一過性にトランスフェ クションした。24時間後、内在する受容体を活性化させるために1µM イソプロテ レノールを添加してレポーター遺伝子の発現を誘導した。非誘導細胞および誘導 細胞はホスホジエステラーゼ阻害剤 Ro20-1724 100µMで処理した。サンプルは6 時間にわたり1時間ごとにPassive Lysis Buffer(カタログ番号 E1941)で溶解し、 Dual-Luciferase® Reporter Assay System(カタログ番号 E1960)およびGloMaxTM 96 Microplate Luminometer(カタログ番号 E6501)を用いてホタルおよびウミシ イタケルシフェラーゼ活性を測定した。CREを欠如した親ベクターではイソプロ テレノールによる刺激後でもレポーター遺伝子の誘導は認められなかった(デー タ未掲載)。 パネルB. パネルAにおける4時間後のpGL4.24-CRE Vectorから得られた高い誘導 倍率が非誘導時の低いルシフェラーゼ活性によることを示していた。誘導倍率は、 誘導サンプルで標準化したルシフェラーゼ活性の平均値(ホタルRLU/ウミシイタ ケRLU)を非誘導細胞の標準化したルシフェラーゼ活性の平均値で割った値 (n=5; 標準偏差は棒グラフ中央のバーで示した)。 8 まとめ この最小限プロモーターや特異的な応答エレメントを組み込んだ新 しいpGL4ベクターにより、応答エレメントの分析を行う上でよりシン プルで優れたツールを研究者に提供します。特異的な応答エレメント の機能が明らかになれば、RNAiの効果や特異的なcDNA発現のモニタ リング、ハイスループットスクリーニングによるリード化合物の同定 をセルベースアッセイへ容易に移行させることができます。 参考文献 1. Dinger, M.C. and Beck-Sickinger, A.G. (2004) In: Molecular Biology in Medicinal Chemistry, 73 94. 2. Paguio, A. et al. (2005) Promega Notes 89, 7-10. 3. Hill, S.J. et al. (2001) Curr. Opin. Pharmacol. 1, 526-32. 4. Paguio, A. et al. (2006) Cell Notes 16, 22-5. プロトコル ◆ pGL4 Luciferase Reporter Vectors Technical Manual #TM259 www.promega.com/tbs/tm259/tm259.html 製品案内 製品名 サイズ カタログ番号 価格(¥) pGL4.23[luc2 /minP] Vector 20 μg E8411 58,000 pGL4.24[luc2P /minP] Vector 20 μg E8421 58,000 pGL4.25[luc2CP /minP] Vector 20 μg E8431 58,000 pGL4.26[luc2 /minP/Hygro] Vector 20 μg E8441 58,000 pGL4.27[luc2P /minP/Hygro] Vector 20 μg E8451 58,000 pGL4.28[luc2CP /minP/Hygro] Vector 20 μg E8461 58,000 pGL4.29[luc2P /CRE/Hygro] Vector 20 μg E8471 58,000 pGL4.30[luc2P /NFAT-RE/Hygro] Vector 20 μg E8481 58,000 CREおよびNFAT-REを含むpGL4ベクターを導入した安定細胞株 GloResponseTM Cell Lineについては24ページをご覧下さい。 Prometech Journal www.promega.co.jp Number 23 2007 新しいpGL4 ルシフェラーゼレポーターベクター使用による転写解析の応答性ダイナミクスの向上 6045MB Luminescence (RLU) 1 × 109 1 × 108 1 × 105 1 × 106 1 × 107 420-Fold Uninduced Forskolin A. Luminescence (RLU) B. 1 × 106 1 × 104 1 × 105 1 × 107 60-Fold Uninduced Ionomycin + PMA CRE Induction of pGL4.29 NFAT-RE Induction of pGL4.30 図2. HEK293細胞に一過性にトランスフェクションしたpGL4.29[luc2P /CRE/ Hygro]およびpGL4.30[luc2P /NFAT-RE/Hygro] Vectorからの高レベルなレポー ターの誘導 96ウェルプレートフォーマットでpGL4.29(パネルA)およびpGL4.30(パネルB) Reporter VectorをHEK293細胞へ一過性にトランスフェクションした。24時間後、 pGL4.29をトランスフェクションした細胞には100µM フォルスコリンを添加して 5時間、pGL4.30をトランスフェクションした細胞には1µM イオノマイシン + 10ng/ml PMAを添加して17時間にわたりレポーター遺伝子発現を誘導した。非誘 導対照として、pGL4.29およびpGL4.30をトランスフェクションした細胞の両方 を等量のDMSO(ビークル)で処理した。ルシフェラーゼ活性はBright-GloTM Luciferase Assay System(カタログ番号 E2610)を用いて測定した。棒グラフ上 に示された数値は各ベクターについての誘導倍率で、誘導ウェルから得られた RLUを非誘導ウェルのRLUで割って算出した(n=15; 標準偏差は棒グラフ中央の バーで示した)。 5251MB RE luc2P PSV40 Hygr pGL4-RE-luc2P PCMV GPCR PSV40 Rluc-Neor pF9A CMV hRluc-Neor 図3. デュアル-レポーターによるGPCRアッセイで使用した2つのプラスミドの ダイアグラム RE, 応答エレメント/luc2P, PEST配列(プロリン、グルタミン酸、セリン、スレ オニン)により不安定化したホタルルシフェラーゼ; PSV40, SV40プロモーター; Hygr , ハイグロマイシン耐性遺伝子; PCMV, CMVプロモーター; Rluc-Neor , ウミシ イタケルシフェラーゼ-ネオマイシン耐性遺伝子融合配列。PEST配列は迅速に分 解するタンパク質に関連する。