生命現象をリアルタイムで理解しよう!: プレートリーダーでシンプルに経時的アッセイをするためのコツとテクニック
リアルタイムアッセイ 生命現象をリアルタイムで理解しよう!: プレートリーダーでシンプルに経時的アッセイをするためのコツとテクニック はじめに 同一サンプルを用いて経時的に測定するリアルタイムアッセイは、デー タを効率的に収集して、薬剤化合物の細胞への長期的な影響を研究す るための優れた手法です。これらのアッセイは細胞を溶解せずに生きた まま測定するので、同じサンプルを用いて複数のポイントで取得するこ とができ、最適な測定タイミングを推測で決定する必要がなくなります。 さらに、処理に対する応答についても同じ細胞集団で観察することがで きるので、アッセイのばらつきを低減することができます。 ここでは、GloMax® Discover とプロメガのリアルタイムアッセイを使用し て得られる生物学的情報についてご紹介します。また、リアルタイムアッ セイを成功へ導くための重要なヒントも含まれています。 リアルタイムでの細胞の健康状態のモニタリング リアルタイムアッセイで測定することにより、より有用なデータを引き 出すことができます。処理の影響を受けているかを判断するだけでなく、 処理がいつ、どの程度素早く細胞に影響を与えたかを理解することが できます。 RealTime-Glo™ Annexin V Apoptosis and Necrosis Assayでは、アポトーシ ス表現型であるアネキシン V のホスファチジルセリン(PS)への結合、 ならびに膜透過性の有無によるネクローシスの両方を同じウェルで長時 間にわたりモニタリングすることができます。PSに標識アネキシンVタン パク質が結合すると発光シグナルが生成され、同時にネクローシス検出 試薬は蛍光シグナルを生成します。これらのシグナルの経時的な変化を 観察することで、アポトーシスまたはネクローシスが誘導されたかを判 断することができます(図 1)。 細胞の状態をリアルタイムでモニタリングするアッセイは細胞、プレー トだけでなく研究者の貴重な時間も節約することができます。エンドポ イントアッセイではタイムポイントごとに多数のパラレルプレートが必要 になりますが、リアルタイムアッセイはたった 1 枚のプレートのみで十 分です。図 2 に示すように、7 枚のプレートを消費してカスパーゼ活性 化を測定するエンドポイントアッセイ、RealTime-Glo™ Annexin V Assay では 1 枚のプレートだけでモニタリングすることができます。リアルタ イムアッセイにより、1 ウェルあたりのデータ量が増え、生命現象をよ り深く理解できることを示しています。 リアルタイムで発光レポーター活性のモニタリング ルシフェラーゼレポーターアッセイは通常、細胞を溶解して行われてい ます。一方で細胞を溶解しないリアルタイムでのレポーター活性のモニ タリングは、多種多様な細胞応答のダイナミクスをよりよく理解するた めのオプションとなります。 NanoLuc® ルシフェラーゼは小さく、高感度な発光レポーター酵素であ り、その基質は膜透過性を示します(NanoLuc® の詳細はかわら版 2016 年夏号および秋号をご覧ください)。生細胞アッセイに至適化された Nano-Glo® Live Cell Assay System は 2 時間までの実験において非常に明 るいシグナルと広 範 なダイナミックレンジを 示します。Nano-Glo® Endurazine™ Live Cell Substrate と Nano-Glo® Vivazine™ Live Cell Substrate はプロメガの技術を用いて開発された新規基質であり、数日にわたる 実験を可能にします。(図 3)。これらの基質により、研究者が求める様々 な実験に対応することが可能となっています。 タンパク質不安定化ドメインが付加された NlucP レポーター(NanoLuc®- PEST)は、細胞内での半減期が短いレポーターであり、化合物処理後に 起こる転写反応の変化をダイナミックに測定することができます。図 4 では、cAMP 応答配列(CRE)を有する NlucP および Nano-Glo® Vivazine™ Substrate を用いて、フォルスコリンによる細胞内 cAMP の増加に続く転 写活性化の用量依存的なタイムコース実験に使用できたことを示してい ます。転写の動態の変化は 10 時間にわたり観察することができました。 Nano-Glo® Live Cell Substrate は、タンパク質の動態タンパク質のリアル タイムな定量を可能にする NanoBiT® レポーターテクノロジーでも使用す ることができます。図 5 では Nano-Glo® Endurazine™ および Vivazine™ 概要 • アポトーシスや転写活性、タンパク質相互作用、タンパク質存在量などをリアルタイムに測定できるアッセイ • プレートリーダーでリアルタイムアッセイをするためのマル秘テクニック • プロメガのプレートリーダーと様々なリアルタイムアッセイ試薬で簡便に動的なバイオロジーを解析 図 1. ホスファチジルセリン(PS:Anx)へのアネキシン V の結合と細胞膜完全性の消失の リアルタイムアッセイ U937 細胞を、連続希釈した rhTRAIL および RealTime-Glo™ Annexin V Apoptosis and Necrosis Assay Reagent の存在下、37℃ /5% CO2 でインキュベートした。バックグラウンドを差し 引いた発光、RLU(ホスファチジルセリンへのアネキシン V の結合、パネル A)およびバッ クグラウンドを差し引いた蛍光、RFU(細胞膜の完全性、パネル B)を GloMax® Discover で 0、3.5、6.5、および 24 時間後に測定した。時間依存的な発光の増加(ホスファチジ ルセリンへのアネキシン V の結合、パネル A)が時間依存的な蛍光の増加(細胞膜完全 性の消失、パネル B)よりも先に起こったことはアポトーシスに続き 2 次ネクローシスが 起っていることを反映している。 0.01 0.1 1 10 100 1,000 0 150,000 300,000 450,000 600,000 750,000 900,000 0 hours 3.5 hours 6.5 hours 24 hours A. Kinetic RLU Reads—PS:Anx V Binding rhTRAIL (ng/ml) Luminescence (RLU) 0.01 0.1 1 10 100 1,000 0 2,000 4,000 6,000 8,000 B. Kinetic RFU Reads—Membrane Integrity rhTRAIL (ng/ml) Fluorescence (RFU) 図 2. リアルタイムアッセイとエンドポイントアッセイによる経時的測定 左パネル(リアルタイムアッセイ):各用量についてのデータは、RealTime-Glo® Annexin V Apoptosis Assay 試薬を 1 回添加した単一のアッセイプレートを用いて複数の時点で取得 した。右パネル(エンドポイントアッセイ):エンドポイントアッセイを用いて7つの別々 のプレートを用いてパラレルデータを取得した。 [paclitaxel] (nM) Luminescence (RLU) 4 hrs 12 hrs 15 hrs 18 hrs 7 hrs 21 hrs 24 hrs 30 hrs 36 hrs 40 hrs 27 hrs 48 hrs 0.01 0.1 1 10 100 1,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 Exposure Period 4 hrs 15 hrs 18 hrs 7 hrs 24 hrs 30 hrs 48 hrs Exposure Period [paclitaxel] (nM) Luminescence (RLU) 0.01 0.1 1 10 100 1,000 4,000,000 3,000,000 2,000,000 1,000,000 0 図 3. Nano-Glo® Endurazine™、 Nano-Glo® Vivazine™ Substrates および Nano-Glo® Live Cell Assay System の発光特性 HEK293 細胞に PGK プロモーターより NanoLuc® ルシフェラーゼを発現するプラスミドを トランジェントにトランスフェクションし、表示時間に発光シグナル強度を測定した。 104 105 106 107 108 Luminescence (RLU) 0 1 5 10 5 20 25 Vivazine™ substrate Endurazine™ substrate Nano-Glo® Live Cell Assay System 2 Substrate を用いて、LgBiT 発現細胞内での HiBiT タグタンパク質の発現 レベルをリアルタイムにモニタリングしています(HiBiT の詳細はかわら 版 2017 秋号をご覧ください)。内在的な発現条件でモニタリングする ために図 5 の実験ではゲノム編集技術により HiBiT タグを BRD4 ローカ スの N 末 端 へ 導入しました。BRD4 を標的として分解する化合物 ARV771 を処理し、BRD4 タンパク質量の変化を発光シグナルにて定量 しました。高感度な HiBiT タグを活用することで、BRD4 タンパク質量の リアルタイムな追跡が可能となることを示しています。 リアルタイム生細胞アッセイのキーポイント これまでに示した結果はどれもエキサイティングですが、リアルタイム の生細胞アッセイを実施する上にはいくつかの検討事項があります。多 くの研究者は、実験用培養プレートを CO2 ガス、湿度および温度制御 されたインキュベーターに保存し、測定する時間にプレートをプレート リーダーに移します。これは最も経済的なアプローチですが、課題があ ります。手動でプレートを移動させる場合、測定前にプレートのふたを 取り外すことによって効率よくシグナルを得ることができますが、イン キュベーターからプレートを取り出す時間が長いほど、結果のばらつき が大きくなります。また、プレートの蓋を外した際の微生物による汚染 を懸念する研究者もいます。 これらの懸念を克服するためのアプローチの 1 つは、CO2 ガスと温度を 制御できるプレートリーダーを使用することです。この場合、環境条件 を気にすることなく簡便に測定できますが、湿度は制御されないため 2 つの問題を引き起こします。まず、外側ウェルでの蒸発が起こりえるため、 96 ウェルプレートの内側 60 ウェル程度しか使えずスループットを制限 してしまいます。第二に、湿度管理のために蓋をして測定すると、ウェ ル間クロストークが増大し、感度も低下します。また、実験を通して結 露が蓋に付着することもあり、アッセイの測定値に悪影響を及ぼします。 シンプルに対処できる方法として、光学的に透明でガス透過性を有する プレートシールを使用する方法が挙げられます。これらのシールを用い れば、プレートの蓋を通さず測定できるためウェル間のクロストークが 抑えられ、しかもシールにより周囲の環境から各ウェルを防護すること ができます(図 6)。さらに、pH 変化に耐性があり、細胞を生存維持さ せる CO2 非依存性培地の使用も有用です。CO2 非依存性培地を使用す ることで、短時間であればアッセイの変動を心配せずに手動でプレート をインキュベーターから出し入れしたり、環境制御機能の無いプレート リーダーでも使用することもできます(図 7)。 結論 プロメガは GloMax® を始めとするプレートリーディングルミノメーターだ けで実施できるリアルタイム生細胞分析を、動的に変化するバイオロジー を簡単かつ経済的に調べる新たな手段として研究者に提供しています。 100 回分 サイズ カタログ 番号 価格(¥) 特別価格 * (¥) リアルタイム(生細胞)アポトーシスアッセイ RealTime Glo™ Annexin V Apoptosis Assay 100 回分 JA1000 68,000 47,600 RealTime-Glo™ Annexin V Apoptosis and Necrosis Assay 100 回分 JA1011 80,000 56,000 リアルタイム(生細胞)細胞生存試験 RealTime-Glo MT Cell Viability Assay 100 回分 G9711 21,000 14,700 NanoLuc® リアルタイム(生細胞)アッセイ Nano-Glo® Live Cell Assay System 100 回分 N2011 28,000 19,600 Nano-Glo® Endurazine™ Live Cell Substrate 0.1 ml N2570 30,000 21,000 Nano-Glo® Vivazine™ Live Cell Substrate 0.1 ml N2580 30,000 21,000 Nano-Glo® Extended Live Cell Substrate Trial Pack 0.2 ml N2590 38,000 26,600 ※ N2590 には N2570 と N2580 のセット品です。 *2019 年 8 月 23 日受注分まで 図 6. 蓋とシールを用いた際のクロストーク Coring plates(Cat.# 3917)に付属するプラスチック製の蓋は、ブリーズイージー(株式会 社 TOHO, 注文コード 0765050)あるいは蓋なしに比べ非常に高いクロストークを示した。 Breathe-Easy® Film は蓋なしに比べるとわずかなクロストークが認められた。 Lid or Film Plastic Lid Breathe Easy® No Lid Film Crosstalk (RLU) Plastic Lid No Lid Breathe-Easy® Film 0.02 0.015 0.01 0.005 0.000 図 7. GloMax® Discover で、37℃で 24 時間、CO2 非依存培地で連続希釈した K562 細胞 の細胞数にともなう シグナル / バックグラウンドカウント 5,000 細胞 / ウェルを 20 細胞 / ウェルまで2倍希釈で調整した。同様のシグナル / バッ クグラウンドレベルおよび感度が、ブリーズイージー(株式会社 TOHO, 注文コード 0765050)および 96 ウェルプラスチック蓋の両方について観察された。 Cell Number Signal/Background Plastic Lid Linear (Plastic Lid) No Lid Linear (No Lid) Breathe Easy® Film Linear (Breathe-Easy® Film) 5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 450 400 350 300 250 200 150 100 50 500 0 リアルタイムアッセイに最適なプレートフィルムをプレゼント! 上記のリアルタイムアッセイ製品ご注文先着 100 名様に、ブリーズ イージーフィルム(注文コード 0765050)サンプル 5 枚セットをプレ ゼントいたします。ブリーズイージーフィルムは酸素や CO2 のガス交 換が可能なフィルムです(材質:ポリウレタン、UV 透過性:~ 30 nm) 日本総販売元:株式会社トーホー TEL:03-3654-6611 URL:www.j-toho-kk.co.jp 図 5. 内因性 BRD4 レベルの動的モニタリング LgBiT を安定に発現する HEK293 細胞を CRISPR-Cas9 で編集し、内在性の BRD4 ローカ スで HiBiT-BRD4 融合タンパク質を発現する細胞を作成した。ARV-771(BRD4 標的デグレ イダー[PROTAC])による処理の後に Endurazine™ および Vivazine™ で HiBiT-BRD4 融合 タンパク質の発現レベルをモニタリングした。 0 1 5 10 5 20 25 103 104 105 106 Time (hours) Luminescence (RLU) 1µM ARV-771 with Endurazine™ substrate 0µM ARV-771 with Endurazine™ substrate 1µM ARV-771 with Vivazine™ substrate 0µM ARV-771 with Vivazine™ substrate 3Promega KWA RBAN 図 4. cAMP 応答配列(CRE)プロモーターを有する NlucP 発現コンストラクトを トランジェントにトランスフェクションした HEK293 細胞 Vivazine™ substrate を 0 時間に添加し、GloMax® Discover、 37℃で連続的に発光を測定した。 約 2 時間後に様々な濃度のフォルスコリンを添加し、細胞内 cAMP 濃度上昇による NlucP の発現を誘導した。グラフはウェルごとに補正された 10 時間にわたるデータ。この基質 により cAMP レベル増加に応じた CRE レポーター活性の用量依存的な上昇を検出した。 For!”#l$% a&d'( In)*e+s$%, fo-.k#/$0 co%1’n2*3ti#% D. 0 10 20 30 Vivazine™ Normalized Response 10 Time (hours) 0 2 468