生細胞内でのキナーゼ:阻害剤の結合解析(ターゲットエンゲージメント)
イントロダクション キナーゼについては、創薬ターゲット分子としてこれまで数多くの研究 がされてきており、癌の標的分子治療薬としてのチロシンキナーゼ阻害 剤研究のブームは一段落した感があるものの、癌以外の疾患の治療薬 のターゲットとしても依然として高い注目を集めています。特に最近の がん免疫研究の盛り上がりにあわせて、併用療法の一角を多くのキナー ゼ阻害剤が担っており、WHO の臨床試験データベースでチェックポイン ト阻害薬と低分子化合物の組み合わせで進められている臨床試験を検 索すると、数百を超える試験が現在進行中であることが分かります。ま た、キナーゼは創薬ターゲットとしての魅力もさることながら、副作用 回避の観点から、オフターゲットとしてのキナーゼ阻害を調べておくこ ともとても重要です。 細胞内でのキナーゼ:阻害剤結合解析受託サービス カルナバイオサイエンス社は 2003 年からキナーゼタンパクの提供、キ ナーゼプロファイリングサービスなどを通じて、お客様のキナーゼ創薬 研究を主に生化学的アッセイを中心に支援し続けてきております。この 度、プロメガ社の NanoBRET™ Target Engagement (TE)テクノロジーを 用いて細胞内でのキナーゼ阻害剤の作用を評価するサービスを開始する ことになりましたので、本稿ではその内容を中心にご紹介させて いただきます。 NanoBRET™ TE Intracellular Kinase Assay は、NanoBRET™ System を生細 胞内での化合物とキナーゼとの結合の解析に応用した技術で、NanoLuc® ルシフェラーゼ – キナーゼ融合タンパク質に可逆的に結合する NanoBRET™トレーサーを用いることにより、細胞内での化合物の見かけ の親和性が測定できます(図 1)。 図 2 には本テクノロジーを用いて BTK に対するキナーゼ阻害剤の効果を 検討した結果を示しています。また、本テクノロジーでは化合物の特徴づ けの指標として、最近注目されている residence time 測定にも応用が可能 です。図 3 に BTK に対する Dasatinib, Ibrutinib の residence time 測定を行っ たデータを示しています。IbrutinibはBTKのATP 結合部位付近のシステイン に共有結合して BTK を不活性化させる化合物で、residence time を測定す ると、ターゲット分子に強固に結合して、tracer を添加しても剥がれてこ ない様子が見て取れます。一方、Dasatinib は非共有結合型の阻害剤です ので、経時的にシグナルが回復して来る様子が観察できます。標的酵素 に対する IC50 が同じでも、ターゲット分子に結合している時間が長い化 合物の方が、生体内で強い阻害を示すことが期待できるため、化合物の residence time を測定することは、化合物の特徴づけ、差別化が可能にな るのみならず、in vivo に投与した際の効果の予測にも役立つと考えられま す。カルナバイオサイエンス社では、本テクノロジーを用いた受託試験の 準備を進めており、まずは 30-40 種のセリンスレオニンキナーゼから着 手し、徐々にその数を増やしていく計画をしています。 生細胞内でのキナーゼ:阻害剤の結合解析(ターゲットエンゲージメント) カルナバイオサイエンス社の ご紹介 弊社ではNanoBRET™ TE Intracellular Kinase Assay 以外にも、アメリカの パートナー企業の細胞におけるキ ナーゼアッセイの代理店サービスを 行っております。一つはシアトルに あ る Advanced Cellular Dynamics (ACD)社の Ba/F3 細胞を用いるアッ セイです。Ba/F3 細胞は IL-3 刺激依 存的に増殖するマウスのプロ B 細胞 ですが、細胞内にチロシンキナーゼ の遺伝子を導入すると、増殖に対す る IL-3 非依存性を獲得し、導入したチロシンキナーゼのシグナル のみで増殖するように変化します。この細胞にキナーゼ阻害剤を 作用させると、導入した一つのチロシンキナーゼの作用を阻害する ことで細胞の増殖抑制が起こるため、細胞の生死を指標にキナー ゼ阻害剤の評価が可能になります。なお、このアッセイにおきまし ては、生細胞数の定量に細胞内の ATP 濃度を測定するプロメガ社 の CellTiter-Glo® を使用しております。ACD 社では現在変異体を含 む全95種類のチロシンキナーゼ導入細胞を保有しており、プロファ イリングや細胞レンタルなどのサービスを実施しております。 カルナバイオサイエンス 株式会社 創薬支援事業本部 副本部長 川瀬 裕介様 概要 • カルナバイオサイエンス社でプロメガの NanoBRET™ 技術を利用したキナーゼ:阻害物質結合解析受託サービスを開始 • 細胞内でのタンパク質:化合物結合解析は生体内での挙動を正確に反映 • IC50 だけでなく結合時間(residence time)も測定可能 細胞ベース解析 ①: 細胞内だから見える真の結合 本サービスの詳細、お問合せ、見積依頼は以下までお寄せください。 info@carnabio.com 図 1. NanoBRET™ を用いた細胞内キナーゼアッセイの原理 標的キナーゼに NanoLuc® luciferase を融合させたタンパク質を細胞に発現させ、BRET acceptor となる蛍光標識した膜透過性 tracer を添加する。Tracer が標的分子に結合する と BRET が起こり、acceptor が蛍光を発するが、化合物が tracer の結合を阻害すると蛍 光が起こらない。この化合物の結合 / 非結合を BRET で検出する。 BRET 13693MA A. B. C. Tracer Concentration Unlabeled Compound Concentration BRET BRET Nluc BRET Nluc Nluc Nluc NanoLuc® luciferase Fluorescent tracer Target protein Test compound 図 2. BTK に対する阻害剤の効果の検討 BTK-NanoLuc® Fusion Vector を HEK293 細 胞 に 強 制 発 現 さ せ、NanoBRET™ Tracer を 添 加、 Staurosporine, Ibrutinib, Dasatinib を添加して各化合物の BTK に対する結合の IC50 を算出した。 BRET Ratio(mBU) TEST Compound Concentration(nM) Staurousporine Ibrutinib Dasatinib 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0.1 1 10 100 1000 10000 図 3. BTK 阻害剤の residence time の測定 BTK-NanoLuc® Fusion Vectorを HEK293 細胞に強制発現させた後、Ibrutinib, Dasatinib とイン キュベートし、未反応の化合物を wash out 後、NanoBRET™ Tracer を添加、反応を経時 的に測定した。Residence time については、非線形回帰にて算出する。 DMSO Dasatinib Ibrutinib BRET Ratio(mBU) Time(min) 80 100 60 40 20 0 0 20 40 60 80 100 120 9Promega WA BAN