HiBiT システムを用いた筋芽細胞細胞融合のモニター系
HiBiT システムを用いた筋芽細胞細胞融合のモニター系 NanoLuc® ユーザーセミナー プロメガ HiBiT 検索 図 1. 筋損傷からの修復プロセス 骨格筋の損傷に伴い、まず筋衛星細胞の活性化及び筋芽細胞への分化が起こる(①)。 その後、筋芽細胞が損傷部位に遊走し(②)、筋芽細胞同士が融合することで筋管細胞 が形成され(③)、筋組織の修復が行われる(④)。 図 3. HiBiT を用いた筋芽細胞融合の検出 HiBiT-LgBiT を用いた C2C12 細胞の細胞融合の検出。双方の細胞を共培養し、分化誘導 をかけた時のみ NanoLuc® の活性化が見られ(a)、その活性化は細胞融合を阻害する CytochalasinD(CytD)添加により阻害される(b)ことから、本検出系における NanoLuc® の活性化が筋分化による細胞融合現象を反映していると考えられる。 図 2. HiBiT を用いた細胞融合検出システムのコンセプト GFP-LgBiT, mCherry-HiBiT 発現 C2C12 細胞を用いた筋管形成の検出系の概略。 骨格筋は物理的な力を発揮するだけでなく、糖の貯蔵、生理活性因子の分泌など様々な生理機能を有する重要な 組織である。また、日常的な収縮、弛緩のサイクルや過度の負荷などにより損傷しても回復することのできる、可 塑性に富んだ組織でもある。骨格筋が損傷を受けると、筋細胞表層に存在する筋衛星細胞が活性化され増殖し、筋 芽細胞へと分化する。その後筋芽細胞が遊走し損傷部位に集合し、細胞同士が融合して骨格筋の前駆体である多核 の筋管細胞を形成する。このようにして形成された筋管細胞により、筋損傷部位が修復されると考えられている(図 1)。これらの過程には多くの分子が関与していることが明らかとなっているが、筋管形成、特に筋芽細胞同士の細 胞膜融合のプロセスに関する基本的な分子機構やその調節機構に関しては未だ不明な点が多い。 これまで、筋管形成は多核筋管細胞の数や骨格筋マーカーの発現量による評価など、形態学的あるいは生化学的な 指標で評価されることがほとんどであったため、C2C12 培養筋芽細胞を用いた筋分化系においては、巨大な筋管細 胞が顕著に増加してくる筋分化誘導後 4 日目以降で筋分化の程度が評価されることが多かった。しかし、筋管細胞 形成には細胞融合だけでなく、細胞の遊走や筋管細胞の維持、成長など様々な要因が関与するため、筋芽細胞の細 胞融合メカニズムに特異的に焦点を当てた分子スクリーニングには split GFP など限られた系で可能であったが検出 感度、検出までにかかる時間などが問題だった。 名古屋大学医学部保健学科 亀高 諭 先生 本研究では、NanoLuc® ルシフェラーゼの発光活性を持たない C 末端欠損型蛋白質 LgBiT と、LgBiT に高い親和性を持つ 11 アミノ酸からなる HiBiT ペプチドを用いた筋芽細胞の融合を検出するモニター系を構築した。LgBiT、HiBiT をそれぞれ GFP および mCherry(mCh)融合型の蛋白質として細胞 に発現させるベクターを構築し、それらをマウス培養筋芽細胞 C2C12 細胞に遺伝子導入し、各々の融合遺伝子の安定発現株を樹立した。得られた 両細胞株を共培養し培地中の血清濃度の低下により筋分化を誘導すると数日の間に多核の筋管細胞が形成されるが、この過程で細胞融合により細 胞質中の GFP-LgBiT、mCh-HiBiT が会合することで、活性型の NanoLuc® が再構成されると予想された(図 2)。実際、C2C12 細胞の筋分化誘導に伴 い数時間後には NanoLuc® の活性化が検出され始め、筋管形成に伴い継時的にその活性は上昇した。また筋管形成を阻害するアクチン重合阻害剤サ イトカラシン D(CytD)の添加によりこの NanoLuc® 活性化が阻害されることなどから、本検出系により形態学的な指標では評価することができない 分化初期の C2C12 細胞の細胞融合現象を感度よく検出することが可能になったと考えられる(図 3)。 また、本アッセイに用いる Nano-Glo® Live Cell Assay 基質は細胞の生存活性にほとんど影響を与えないため、NanoLuc® 活性の測定後メディウム交換 により分化を継続することや、同一ウェルの生細胞数を MTT アッセイなどにより測定することができることから、同一ウェルの継時的な測定や、薬 剤や遺伝子制御による細胞融合の度合いの変化を適切に評価することが可能であると考えられる。 ● C2C12 筋芽細胞に HiBiT、LgBiT を導入することで筋分化に伴う細胞融合の検出系を確立した。 ● 本検出系により筋芽細胞融合に関わる分子スクリーニングが効率よく行えると考えられる。 結論 亀高先生のお話の中で、HiBiT を用いた検出系での評価により、筋細胞融合に関する遺伝子の新たな側面を切り開く事も出来た とのコメントが印象的でした。亀高先生の結果より、細胞の融合に加え、昨今注目されるエクソソームを介したデリバリーなど にも応用が可能とも感じました。現在、先生はこの系を活用し、筋細胞融合に関する化合物の探索を実施されています。新た な発見の報告が待ち遠しいです! プロメガ学術部員の 目からウロコ 4