Promega info 造血器疾患の遺伝子検査のための血液/骨髄液からのRNA抽出
Promega Info 造血器疾患(貧血や白血病など)が疑われた際、その診断のために血液や骨髄液を検査材料として血液学的検査 (細胞の算定や分画など)や遺伝子/染色体検査(遺伝子変異や融合遺伝子の検出など)が行われる。近年、白血病 や骨髄増殖性腫瘍では様々な遺伝子/染色体異常が同定されており、これらの遺伝子検査は診断や治療薬選択の 一助となる。 当院検査部では、白血病や骨髄異形成症候群の診断・治療効果判定・再発モニタリングの為に、Major BCRABL1融合遺伝子やWT-1遺伝子のmRNA定量検査を行っている。白血病では、治療により寛解に至っても腫瘍 細胞は体内に残存していると言われており、再発を早期に発見する為には、この微小残存病変をRT-qPCRによ り高感度に検出する必要がある。微小残存病変を検出するには、RT-qPCRの検出感度はもちろんのこと、それ に供するRNAも高濃度かつ高純度であることが必要である。一方で、検査の効率化や手技の標準化、精度管理 といった観点からは、核酸抽出の工程は自動化されていることが望ましい。 プロメガ株式会社 造血器疾患の遺伝子検査のための血液/骨髄液からのRNA抽出 ⚫ 血液/骨髄液の細胞数には個人差がある。(基準範囲:血液の白血球数、3000〜 9000/µL;骨髄液の有核細胞数、10万〜20万/µL) ⚫ 貧血や白血病などの造血器疾患がある場合には細胞数が大きく変動する。 ⚫ 微小残存病変の微量なmRNAを高感度に検出する為には高濃度のTotal RNA (100 ng/µL以上) が必要である。 ⚫ 細胞数が多すぎるとDNAのコンタミネーションが生ずる危険性がある。 千葉大学医学部附属病院 検査部 遺伝子検査室 石毛崇之先生、北村浩一先生、小林崇平先生、根川真実先生 今回は、当院検査部における全自動核酸抽出装置 Maxwell® RSC Instrument および Maxwell® RSC simplyRNA Blood Kit (カタログ番号 AS1380) を用いた血液/骨髄液からのRNA抽出の例を紹介する。 写真 ⚫ 検体の液量ではなく細胞数を揃える。 • 使用する細胞数は、1.0×107〜1.5×107 個とする。骨髄液では1.0×107 個、血液で は1.5×107 個が良い。 (Maxwell® RSC simplyRNA Blood Kit は健常人の血液2.5 mLを推奨最大検体量と設定している。 健常者の平均的な白血球数 (6000個/µL) より、処理可能な最大細胞数は1.5×107個とした。) ⚫ 核酸精製は自動核酸抽出装置 Maxwell® RSC Instrument で行う。 • Maxwellは、右図のような磁性ビーズつり上げ方式のため、粘性のあるサンプルでも (カラム法と異なり)目詰まりすることなく、良質なRNAが得られる。 • 磁性ビーズつり上げ法は(ピペッティング法と異なり)、機器内部への吸引によるコ ンタミリスクなし。 • 簡易な構造のため、堅牢性が高く、検査業務を安定的に遂行できる。 当院の工夫(血液/骨髄液からRNAを抽出するための) 困難な点(造血器疾患の遺伝子検査における) マグネットロッドを用いた 磁性ビーズつり上げ法 磁性ビーズ 核酸 磁石 【 核酸抽出方法 】 骨髄液の有核細胞1.0×107個よりRNA抽出を行った(表1)。 1.0×107個の細胞を用いることで高濃度 (100 ng/µL 以上) かつ高純度 (A260/A280 >2.0) のTotal RNAを 回収できることがわかった。血液/骨髄液の細胞数は病勢 や治療の影響により変化する為、事前に細胞数を算定し 一定量の細胞をRNA抽出に用いることは効率的な検査を 行う上で有用であると考えられる。 *骨髄液Dは末梢血混入のある検体. 表1. 有核細胞 1.0×107個より抽出したTotal RNA 濃度 および 純度 お問合せ先 プロメガ株式会社 Maxwell RSC 検索 www.promega.jp TEL. 03-3669-7981 E-mail: PKKIS@promega.com Promega Info 血液/骨髄液からのRNA抽出プロトコール 1. サンプリング EDTA採血管に血液または骨髄液を採取する。 2. 細胞数の算定 自動血球計数装置を用いて末梢血の白血球数または骨 髄液の全有核細胞数を算定する。 3. 赤血球の溶血 15 mLまたは50 mLの遠沈管に細胞数が1.0×107〜 1.5×107個になるようにサンプルを分取し、サンプル 量に対して3倍量の Cell Lysis Solution (溶血バッ ファー) を加える。室温にて5〜10分間のインキュ ベーションを行う。遠心(2,300 rpm、室温、2分)し た後、細胞ペレットを残し、上清を捨てる。 4. 細胞ペレットの調製 細胞ペレットを1 mLの Cell Lysis Solutionで再懸濁 し、全量を1.5 mLチューブに移す。遠心 (5,000 rpm、 室温、1分)した後、細胞ペレットを吸わないよう上清 を完全に除去する。 5. 細胞の溶解 細胞ペレットに冷却した 1-Thioglycerol / Homogenization Solution を 200 µL 加え、ペレッ トがなくなるまでボルテックスをする。Lysis Buffer 200 µL 及び Proteinase Kを25 µL加え、30秒間ボル テックスする。室温にて10分間のインキュベーション を行う。 6. RNA抽出 カートリッジ、プランジャー、DNase I Solution、 Elution Tube (抽出液:50 µL の Nuclease-Free Water)を準備し、細胞溶解液全量をカートリッジに 加え、Maxwell® RSC Instrumentでの全自動RNA抽 出を実施する。 7. 品質チェック NanoDropで濃度および純度を測定した後、RT-qPCR に使用する。 実施例 No. 全有核細胞 細胞数 (1×107 ) ng/µL A260 / A280 骨髄液A 9万/µL 230.8 2.08 骨髄液B 10万/µL 265.5 2.10 骨髄液C 17万/µL 297.7 2.09 骨髄液D* 1.1万/µL 157.7 2.08 その他の利用 当院検査部では、造血器疾患の検査だけでなく、FFPE 組織を用いた固形腫瘍の遺伝子検査 (マイクロサテライト不安定性 検査など) や遺伝学的検査も行っている。試料や抽出核酸に応じて使用するキットを変えることにより全ての検査項目に おいて核酸抽出工程を自動化しており、Maxwell® RSC Instrument は効率的な検査の運用に役立っている。 検査の例 試料 抽出核酸 キット 造血器疾患の検査 血液/骨髄液 RNA Maxwell® RSC simplyRNA Blood Kit [AS1380] 固形腫瘍の検査 FFPE組織 DNA Maxwell® RSC DNA FFPE Kit – PKK, Custom [AX2500] 遺伝学的検査 血液 DNA Maxwell® RSC Whole Blood DNA Kit [AS1520] 表2. 検査項目に応じた核酸抽出キットの選択 血液からのRNA抽出キット Maxwell® RSC simplyRNA Blood Kit (カタログ番号 AS1380) 自動核酸抽出装置 Maxwell® RSC Instrument (カタログ番号 AS4500)