PCR基本情報
- PCRの最適化のために特に重要なパラメーターは何ですか?
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PCRはクローニング、サブクローニング、DNAシークエンシング、遺伝子発現の解析、欠失変異、変異の導入などを含む多くのアプリケーションで有効な手法です(1-3)。PCR増幅を確実に行うために最適化を必要とする重要なパラメーターは、鋳型の選択および精製度、マグネシウム濃度、プライマーデザインおよび濃度、ヌクレオチドの濃度、耐熱性酵素のタイプおよび濃度、サイクルの設定などが挙げられます。
鋳型: ゲノム、ウイルスDNA、プラスミドのようなベクター、逆転写によって合成されたcDNAなど多種類のDNAが増幅の鋳型として使われます。ゲノムのような複雑な構造の鋳型では約1ng~1μgが使われます。プラスミドやcDNAのような複雑でない標的である鋳型は一般的に10pg~100ngを必要とします(2)。
マグネシウム: 反応液中のマグネシウム濃度は重要であり、一般的に1.0~5.0mMの範囲で最適化されます。しかし、この濃度は耐熱酵素の種類と同じようにヌクレオチドの濃度に依存して変化します(2,3)。マグネシウム濃度はプライマーのアニーリング、PCR産物の特異性、酵素の活性や忠実性に影響する可能性があります(2)。PCRでは総dNTP濃度からさらに0.5~2.5mMのマグネシウムを含む必要があります(2)。プライマー: PCRに使うためのプライマーをデザインする時にいくつかの考慮すべき点があります。それらにはオリゴヌクレオチドの長さ、Tm値、配列の物理的な特徴、プライマーの相互作用の可能性、増幅産物の長さ、標的となる鋳型配列上での位置などが含まれます(1-3)。プライマーの濃度は一般的に0.1~0.5μMで使われます。プライマーの濃度が高すぎた場合、ミスプライミングを起こしたり、人造的なPCR産物と呼ばれる非特異的な産物を産生します。一般的なプライマーは18~28 nucleotidesの長さ、Tm値は55~80℃を示し、G/C含量は45~55%です(1,2)。
ヌクレオチド: ヌクレオチドの溶液はpH7.0に調整し、最終濃度はそれぞれ20~250μMになるように加えます(2)。この濃度では収量、産物の特異性、酵素の忠実性において至適化されたバランスで得られます。各dNTPは取り込みのミスを減らすために等モル濃度で加えてください。dNTPsは遊離のマグネシウムイオンをキレートするので、Mg2+を加えて補正しない場合は過剰のdNTPsを加えないでください。
酵素: PCR用に多種類の耐熱性DNAポリメラーゼが販売されています。これらのポリメラーゼでは耐熱性、忠実度、最適な反応条件が異なっています。耐熱性DNAポリメラーゼの一般的な概要は文献1に詳しく記載されています。Pfuのような耐熱性DNAポリメラーゼは3’→5’方向へのエキソヌクレアーゼ活性を持っているため、平滑末端を持つPCR産物を作成します。一方、エキソヌクレアーゼ活性を持たないTaqのようなその他の耐熱性酵素は1個のアデノシンを付加されたPCR産物を作成します(4)。一般的に100μlの反応には0.5~1.25 unitsの酵素が使われます(2,3)、しかし、特殊なアプリケーションでは酵素の追加が必要な場合があります。酵素濃度が低すぎると、充分量の産物が作成されません。高すぎる場合、非特異的なバックグラウンドのバンドが作成されます(2)。
サイクリング: PCRのサイクル条件は“変性”、“アニーリング”、“伸長”からなる連続のステップを20~30回繰り返します。92~95℃で10~60秒インキュベーションすることで鋳型DNAの変性を行い、続いてプライマーのアニーリングステップを行います。一般的にアニーリングはプライマーのTm値の±5℃の範囲内の温度で10~60秒間行います。酵素による伸長ステップは一般的に72~74度で30~60秒間行われます。これらの条件は目的のPCR産物の鎖長や用いる酵素の特異性によって変更されます。全長の産物を作成するために最初の変性ステップと最後の5~10分の伸長反応が有用な場合があります。
この基本的な増幅のプロフィールを元にして多くのバリエーションを行うことができます。それらのバリエーションは使われているPCRのアプリケーションによります。最近のアプリケーションには、ディファレンシャルディスプレイ(5)で理論的に全てのmRNAを増幅する(続けてcDNAを作成する)ためのdegenerateプライマーを使うものや、希少な目的の配列を検出したり、非特異的な産物の増幅を減少させる(6)ためのnestedプライマーを使う第2ラウンドのPCRの2つがあります。
増幅されにくい鋳型DNAは、DMSO(7)、betain(7)、formamide(8)、single-stranded DNA binding protein(9)などの試薬を添加することで改善することができます。
参考文献
- Griffin, H.G. and Griffin, A.M. (1994) PCR Technology: Current Innovations, CRC Press, Inc., Boca Raton, FL.
- Innis, M.A. et al. (1990) PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press, Inc., San Diego, CA.
- Mullis, K.B. et al. (1994) The Polymerase Chain Reaction, Birkhauser, Boston, MA.
- Clark, J.M. (1988) Nucl. Acids Res. 16, 9677.
- McClelland, M., Mathieu-Daude, F. and Welsh, J. (1995) Trends Genet. 11, 242.
- Mitsuhashi, M. (1996) J. Clin. Lab. Anal. 10, 285.
- Frackman, S., Kobs, G., Simpson, D. and Storts, D. (1998) Promega Notes 65, 27.
- McConlogue, L., Brow, M.A. and Innis, M.A. (1988) Nucl. Acids Res. 16, 9869.
- Oshima, R.G. (1992) BioTechniques 13, 188.
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